宝石に変わった涙


高層ビルのスカイラウンジ……。
そこから見える大都会の夜景は、幸せな女性の目には、まるで宝石箱のように映る。
しかし、恋に破れた女性の目には、まるで幾千もの涙の粒のように映る。

その夜、彼女はスカイラウンジに一人で来ていた。
街の夜景が見渡せる席に座っている彼女の隣には、一緒にいるはずの彼の姿はなかった。
彼は海を越えて、遠い西の国へ旅立ってしまった。自分自身の夢を追いかけるために……。

「一緒に来てくれないか?」
旅立つ前、彼は彼女にそう言ったが、彼女は行かなかった。と言うより、一緒に行く決心がつかなかった。

このスカイラウンジは彼と付き合っていた頃の二人のデートスポットだった。
週末の夜、食事をしたあと二人はいつもこのスカイラウンジに立ち寄り、いろいろなことを語り合った。
お互いの仕事のこと、趣味のこと、そして将来の夢……ときには意見が違って議論することもあった。
しかし、たとえどんなときでも、幸せな二人の目に映る街の夜景は、まるで宝石の輝きのように素敵に映っていた。

今、彼女は一人でカクテルを飲みながら街の夜景を眺めていた。カクテルの名前は『ミッドナイトジュエリー』。
しかし、彼女の目に映っている街の夜景は、カクテルの名前には似合わない、まるで幾千もの涙の粒のようだった。

やがてカクテルを飲み終えた彼女の元にもう一つ別のカクテルが運ばれてきた。
彼女は戸惑った。なぜなら、彼女はそのカクテルを注文していなかったからだ。
しかしそれは、スカイラウンジのマスターが彼女のために作ったものだった。
そのカクテルの名前は『地中海ドリーム』。

彼女はそのカクテルを一口飲んだ。
『地中海ドリーム』……それは彼が大好きなカクテルだった。
しばらくして彼女は決心した、彼のところに行こうと。
すると、いままで彼女の目に映っていた街の夜景が、それまでの涙の粒とは違って、幾千もの宝石のように変わっていった。

高層ビルのスカイラウンジから見える大都会の夜景……それはときとして幾千もの涙の粒のように見える。
しかしその涙の粒は、いつしか素敵な宝石に変わることもある。

      

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