K市への道程


「僕はK市まで行くんですが、あなたはどちらまで行かれますか?」
メトロポリスの駅……西行きの下り列車の中で、男は隣の席に座っている女に話しかけた。
「私もK市まで行きますよ」
「それはちょうどよかった。もしも僕が途中で眠ってしまって乗り越しそうになったら、起こしてくれませんか?」
女は男のその言葉に快く頷いた。

列車が動き出した後、男は女に尋ねた。
「僕はK市へは観光で行くんですが、あなたも観光ですか?」
それに対して女は、「ええ、まあ」と、どことなく寂しそうな表情で頷いた。
それを見た男は、それ以上話しかけることができなかった。

しかし、しばらく時間が経った頃、女は少しずつ、ゆっくりと男に向かって話し始めた。
「K市は私の生まれ育った街で、高校を卒業するまで住んでいました。静かな山ときれいな海、そんな自然に囲まれたとてもいい街ですよ」
それから、女はK市の観光スポットなどをその男にいろいろと話して聞かせた。

K市のことをひととおり話し終えた女は、やがて自分自身のことをその男に話し始めた。
「私は都会に憧れてK市を離れました。でも、これからは生まれ故郷のK市に帰って暮らそうと思っています。なんか都会での生活に疲れてしまって……」

男はそんな女の話を黙って聞いていたが、女は構わず話し続けた。
「私、都会ではいろいろなことができるんじゃないかと思って、だから何か自分の一番したいことを見つけようと思ったんです。でも、結局それは見つかりませんでした。それに、今まであまりいいことがなかった……辛い恋も経験したし、信じていた友達にも裏切られたりしました」

やがて女は、気を取り直したように、優しい表情で男に言った。
「ごめんなさい、これから楽しい旅行だっていうのにこんな暗い話をしてしまって。さっきも話したように、K市はとってもいい街ですから、しっかり楽しんで帰ってくださいね」
女のその言葉に男は頷きながら、優しく応えた。
「いいんですよ、気にしないでください。でも、自分のしたいことを諦めるのはまだ早すぎると思いますよ。それに、どんなに辛い時でも、日常のささやかな喜びって、きっとあなたにもあったはずです。だから夢や希望は失わないでください」

それからどれくらいの時間が経っただろうか、列車はK市の駅に停車した。
やがて男は改札口を出てタクシーに乗った。
しかし、一緒に改札口を出てくるはずの女は、いつまでたっても姿を見せなかった。
なぜなら、その時女は駅のホームにいた。そしてそこは上り列車に乗車するためのホームだった。
そう、女は都会に戻って、男の言ったとおり、もう一度夢や希望を見つけることにしたのだった。

それから数週間後……。
「ねぇ、美味しいリングイネが食べられるパスタのお店見つけたの。今日の食事はそこにしましょう」
「うん、いいね。じゃあ行こうか」
あの時K市行きの列車に偶然乗り合わせた男と女、その二人の第二幕がメトロポリスで始まった。

      

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