森林の香り


峠のパーキングエリア……そこは緑豊かな高原の中、自然とふれあえる小さなオアシスだ。
高原の雲海、山並みに沈む夕日、澄み渡った夜空での満天の星が楽しめる。
そしてパーキングから続いている歩道を歩いていくと、そこは森の中に通じていて、人々が森林浴を楽しめるようになっていた。

僕と彼女はドライブの途中でよくこのパーキングを訪れる。
彼女は山歩きが趣味で、よく森林浴を楽しんでいた。
だから、二人で初めてここを訪れたとき、彼女は僕に森の魅力についていろいろと話してくれた。
「森は『リラックスの素』の宝庫なのよ。植物が発散するフィトンチッド、味覚を満足させてくれるキイチゴ、じんわりと効く薬草……森の中にはね、そこを訪れる人を優しく包んでくれるものがたくさんあるのよ」

「フィトンチッド、って何?」
そのとき僕は、彼女が言った聞きなれない言葉について尋ねた。
「フィトンチッドっていうのはね、一言で言えば『森林の香り』ってことよ。もっとわかりやすく言うと『木の香り』ってこと。あなたはたかが木の香りか、って思うかもしれないけど、森林や木には特別な力があるのよ。だからわざわざフィトンチッドって言う言葉で表現されてるの」
彼女は優しい笑顔で答えてくれた。

彼女はさらに続けて、
「森に満ちているフィトンチッドはね、植物が自分の身を守るために発散する不思議な物質なの。だけどね、それは植物だけではなくて、私たち人間の心と体にとっても、優しく作用してくれるのよ」
と言って、僕に森が持っている神秘的な魅力について話してくれた。

僕は彼女と二人で森の中を歩いてみた。
緑にあふれた森の中を歩いていると、爽やかな空気が広がり、そのうちにかすかな香りも感じることができた。
そして歩いているうちに僕は、この身も心もリフレッシュしてくれるような爽快感、これが彼女が教えてくれたフィトンチッドの力なんだろうな、と感じた。

彼女は森の中でキイチゴを摘んでいる人を見ながら言った。
「キイチゴや薬草を摘んで帰るときはね、森の生きものたちのことも考えて、ほんの少しだけにしておくのよ。森が私たちを優しく包んでくれるんだから、その代わりに私たちも森のことを大切にしてあげないとね」
そして彼女はキイチゴを一粒摘んで、僕に食べさせてくれた。

彼女が僕に教えてくれた『リラックスの素』の宝庫……森は僕の心と体を優しくリフレッシュしてくれた。
しかし、同時に僕は感じていた。僕にとっての本当の『リラックスの素』の宝庫は、実は他でもない彼女自身なんだと。

      

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