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一月遅れの春一番
ベイエリアを見渡すことができる海辺の公園……。
晴れた日の休日には、カップルや家族連れで賑わう憩いの場所になっていた。
春の足音がもうすぐそこまでやって来ている三月のある休日、僕はその公園を訪れた。
その日はちょうど春一番が吹いて、公園の木々もいつもより激しくざわめいていた。
潮風を感じながらベイエリアの街並みを見つめていた僕の足下に、春一番が白い帽子を運んできた。
その帽子を拾い上げて、それがやって来た方向を見た僕の目に、一人の女性がその帽子を追いかけてくる姿が映った。
それが僕と彼女の出会いだった。
それから僕たちはときどき会った。待ち合わせの場所はいつも海辺の公園だった。
彼女は僕と会うときはいつも帽子をかぶっていた。
彼女は帽子が好きで、いろいろな帽子をたくさん持っていた。
だから僕と会うとき彼女は、いつも違う帽子をかぶってきていた。
そしてどの帽子も彼女にはとてもよく似合っていた。
「君は素敵な帽子をたくさん持っていて、どの帽子をかぶっていても君によく似合っているけど、帽子を買うとき、いつも自分で選んでるの?」
ある日、僕は彼女に尋ねたことがあったが、そのとき彼女は、
「お気に入りのお店があってね、いつもそのお店の人に選んでもらっているのよ。自分ではどれが似合うのかよく分からないしね」
と楽しそうに僕に話してくれた。
そんな彼女と彼女の帽子……僕を楽しませてくれていたものに別れのときはやって来た。
僕は仕事で配置転換をされてとても忙しくなり、彼女と一緒に過ごせる時間が少なくなっていったからだった。
そして、いつの間にか二人の仲は自然消滅、彼女は僕の前からいなくなってしまった。
あれから一年、彼女との楽しい記憶が薄れかけていたある四月の休日……。
僕はひとりであの海辺の公園を訪れた。
そしていつものように、潮風を感じながらベイエリアの街並みを見つめていたが、そんな僕の足下に白い帽子が飛んできた。
そのとき僕の記憶の中に、彼女と出会ったときのあの春一番が吹いていた日のことがプレイバックしてきた。
帽子を拾い上げて、それが飛んできた方向を見た僕の目に映ったもの……そう、それは久しぶりの彼女の笑顔だった。
帽子が飛んできたのは、彼女がそれを僕に向かって投げたからだった。
しかし、その帽子は確かに風に乗ってやってきた。
そしてその風は、彼女が吹かせた春一番……ふだんより一月遅い春一番だった。
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