白い宝石


「どこまでも青い海と空、そして白い建物……素敵ねー。ねぇ、新婚旅行は絶対ここにしましょう」

旅行会社からもらったパンフレットを見ながら、彼女はとても楽しそうに、隣に座っている彼に話しかけていた。
彼との結婚が決まった彼女の憧れの場所は、エーゲ海でもっとも人気の高い島の一つで、『白い宝石』と呼ばれているミコノス島だった。

「へぇー、この島には教会が四百二十もあるんですって。あっ、これ見て、この真っ白なパラポルティヤニ教会っていうのが有名みたい。こんな教会で結婚式を挙げられたら素敵だわ」
今、彼女はすっかりその『白い宝石』に心を奪われていた。

しかし、そんな彼女の話を隣で聞いている彼の心の中は、とても複雑な心境だった。
結婚が決まったとはいえ、彼はその結婚をもう少し先に延ばしたいと思っていた。
なぜならば、彼が勤めている会社は経営状態が苦しくて倒産寸前という状態だったからだ。
彼はそのことを彼女に伝えなければいけないと思っていたが、彼女の楽しそうな表情を見ていると、なかなか言い出せなかった。

「ねぇ、聞いてる? いっそのこと結婚式もここで挙げちゃいましょうよ。あなたはどう思う?」
そんな彼女の問いかけで我に返った彼は、
「うん、そうだね。一生の記念になるし、いいんじゃないかな」
と少し曖昧に答えたが、それを聞いた彼女は、
「本当! 嬉しいわ。じゃあ早速両親とも相談して準備をしなきゃ」
とすっかり有頂天になってしまった。

それからしばらく後、彼の会社はとうとう倒産してしまった。
彼は職を失って、別の仕事を探さなければならなくなった。
そして、そのことを彼女に打ち明けると、彼女はとても悲しそうな様子だった。
それでも、結婚式だけは予定通り挙げましょう、と言ってくれた。
しかし、当然彼女の両親は大反対、彼と彼女の仲も気まずい状態になっていった。

このまま結婚式を挙げても、後になって必ず後悔するだろう……そう思った彼は彼女に告げた。
「残念だけど、結婚式はしばらく延期しよう。僕が新しい仕事に就いて、君と一緒に暮らしていける自信が持てるようになったら、その時は改めてプロポーズするよ。『白い宝石』での結婚式、叶えてやれなくてごめん」

「ううん、いいのよ。私、その日が来るのをずっと待ってるわ。それに『白い宝石』は、今の私たちにはこっちの方が似合ってるかもね」
そう言って微笑んだ彼女がバッグの中からとり出したものは、白くて甘いミルクキャンディーだった。

    

[ Previous ] .............................. [ Back ] .............................. [ Next ]