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空白の一ページ
彼女は美味しいものが大好きだ。
そして美味しいものを食べ歩くのも大好きで、いろんなお店を知っていた。
和食、洋食、中華、さらに居酒屋やファーストフード、カフェまで、ありとあらゆるジャンルのお店の情報を知っていた。
だからどこへ行こうかと迷ったときには、必ず彼女に相談している。
「今日は中華料理が食べたいんだけど、どこかいいところないかな?」
「中華料理? それならウォーターフロントに新しくできたお店があるから、そこがいいわよ」
とか、
「今度の飲み会、僕が幹事なんだ。十五人ぐらいなんだけど、どうかな?」
「そうねー、だったら駅前に炉端焼きのお店があるんだけど、安くて美味しいって評判よ」
といった調子で、すぐにいろいろなお店を紹介してくれる。
さらに彼女は、自分の知っているお店の情報を手帳に書き留めていた。
一ページに一軒ずつ、店の名前、ジャンル、場所、営業時間、定休日、そして彼女自身のコメントなど、詳細に記載してあって、それを見た僕はすっかり感心してしまった。
そんな彼女の手帳に、一ページだけ空白のページがあった。
正確に言えば、ページの上の方に、”店の名前『ラ・フォンテーヌ』(カフェ)”と書いてあるだけだった。
なぜそれだけしか書いてないのか、僕は彼女に尋ねたことがあったが、彼女はあまり話したがらなかった。
しかしある日、彼女が僕にその空白のページのことを話してくれた。
三年前、彼女はある男性と付き合っていた。
その彼とのデートでは、いつも『ラ・フォンテーヌ』が待ち合わせの場所となっていた。
彼女はその場所がとても気に入っていた。いつも静かな音楽が流れていて、彼女にとってはとても落ち着ける場所だった。
ある日、彼女が初めて一人でその『ラ・フォンテーヌ』を訪れた時、彼もちょうど来ていた。
しかしその時、彼は別の女性と一緒に来ていたのだった。
彼は彼女に気付かず、彼女は早々にその場所から立ち去った。
そしてしばらくして彼からの別れ話、しかもその『ラ・フォンテーヌ』で告げられた。
それ以来、彼女にとってその『ラ・フォンテーヌ』は辛い思い出の場所となっていた。
それを聞いた後、僕は彼女に言った。
「今度のデートの待ち合わせ場所は『ラ・フォンテーヌ』にしよう」
彼女はちょっと戸惑ったような表情でしばらく黙っていたが、僕はかまわず続けて言った。
「君の心の中にある空白のページを埋めるためにも、もう一度その喫茶店で楽しい思い出を作ろうよ」
その後、彼女の手帳の空白の一ページが埋められ、特別な一ページに変わった。
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