白い時計塔


僕たちの街にある公園には白い時計塔がある。
公園の入り口から続いている桜並木に沿って進んでいくと、その終点に立っている。
毎日、午前十時、正午、午後三時、そして午後六時になると、時計の部分の下の扉が開いて、かわいい音楽とともに人形たちが踊り出す。
だから、その時間になると、公園にいる人たちは時計塔の周りに集まってきて、童心に戻ってたたずむ光景が見られる。

またその時計塔はよく待ち合わせの場所として使われていた。
僕と由美が会うときもいつも、待ち合わせの場所はその時計塔だった。
そして待ち合わせの時間はいつも正午、人形たちが踊り出す時間だった。

しかし、その由美との待ち合わせの時間に、僕はよく遅れて来ていた。
でもそんなとき由美は、少し微笑んで、決まってこんなふうに言ってくれた。
「いいのよ、私その間に人形たちが踊っているところを見て楽しんでるから。それを見ていると心が和むの。それに人形たちって、とってもかわいいのよ」
由美はそんな時計塔が好きで、ときどき人形たちの踊りを見るために、一人でもやって来ているようだった。

僕と会っているときの由美は、よくミルクティーを飲み、シフォンケーキを食べていた。
猫が好きで、いつも飼っている猫のことを僕に話してくれた。
英会話をマスターしたいと勉強していた。
音楽はクラシックが好きで、なかでもモーツアルトがお気に入りだった。
そして、すこし背中を丸めてよく笑うのが由美の癖だった。

そんな由美とも別れてしまって、今はもういない。
同時に公園の時計塔の周りからも姿を消した。
もう二年前の出来事だった。

いま僕は時計塔の前で、もうすぐやって来るだろう、いま付き合っている彼女を待っている。
時間はちょうど正午、そろそろ人形たちが踊り出す時間だ。
扉が開いて、かわいい音楽とともに人形たちが姿を見せた。

「ごめんなさい、待った?」
彼女は少しだけ息を切らしながら、僕の前に現れた。
「いや、僕もいま来たところだよ」
そう彼女に言った僕の時計……ちょうど十一時四五分を指していた。

二年前、由美と別れてから、僕の時計はいつも十五分進んでいる。
(さてと、今日は彼女にモーツアルトの話でもしてやろうか……)
季節は春爛漫、公園の桜並木は優しいピンク色の花びらを満開に咲かせていた。

 

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